2004年タドキスト大会 

レベル2〜3の児童書シリーズの読みやすさ順調査報告

2004年12月5日

しお&はらぺこあおむし

1.調査の目的

 

GRでレベル2〜3まで読み進み、初めて児童書に手を出したとき、知らない単語や表現がGRと比べて格段に増えるため、壁を感じる方がたくさんいます。また、レベル2〜3の児童書シリーズは数が多いだけに、かえって選びにくいという面があります。しかし、ここでうまく児童書の世界を楽しめるようになれば、読書の幅がぐっと広がります。

そこで、今回のタドキスト大会のYL検討企画では、レベル2〜3の児童書シリーズをもっと選びやすくするため、掲示板でよく話題になる代表的なシリーズについて読みやすさ順を調査しました。

 

2.調査対象シリーズ


 


上記の調査対象シリーズを2つ以上読んでいる方に、読みやすい順番・その理由を掲示板で回答していただき、述べ76名の回答を得ました。(詳細データは、Excelファイルにまとめています。読みやすさ順回答は、Excel表「元データ」参照。)

 

3.どのシリーズを基準本とするか

 

1)Magic Tree Houseはバラつきが大きい

 

上記シリーズの中では、Magic Tree Houseの回答数が最多であり、はじめMagic Tree Houseを読みやすさ基準の軸となる本として使おうと考えました。しかし、Magic Tree Houseは、読みやすさの評価が易から難までバラついており、基準軸としては向かないという結果が出ました。(詳細は Excel表「MTH軸」参照)

 

Magic Tree Houseの読みやすさ評価がばらつく理由>

日常生活から他の場所に行くというパターンを掴めばやさしく感じます。しかし、#1が恐竜、#2が中世のお城と、最初の2冊で知らない単語に出会う確率が高く、最初が読みにくく感じたという声が多くありました。そのため、Magic Tree Houseを読んだ時期、量によって、読みやすさ評価がばらついています。また、主人公の兄妹が行く場所によって読みやすさが変わるという面があります。

主人公に感情移入しにくい、話のディテール・伏線の甘さが気になって、あまり好きになれないという意見も複数ありました。その場合、「好きになれない」が「読みにくい」につながります。

 

2)Marvin Redpost基準

 

Magic Tree Houseは基準軸に向かないということで、その次に回答数が多く比較的バラつきの少ないMarvin Redpostを基準軸としてみました。(詳細はExcel表「Marvin軸」参照)

 そして、各シリーズについて、Marvin Redpostより「読みやすい」、「同じくらい」、「読みにくい」という回答をそれぞれ集計すると、以下の表のようになりました。

 


 


この表をみると、「Marvinより読みにくい」という割合が、Magic Tree Houseの55%を境にして、2つのグループに分かれます。

 

        Marvinより読みにくい」が30%台

Cobble Street Cousins, Flat Stanley

        Marvinより読みにくい」が70〜80%台

Fullhouse Michelle, Nancy Drew Notebooks, Zack Files, Maximum Boy, A to Z Mysteries

 

Cobble Street Cousins、Flat Stanleyについては、Marvinより読みやすいグループとして分類できそうです。しかし、Marvinより読みにくいシリーズは5つ、団子状態になっています。

 

3)A to Z Mysteries基準

 

前項の「Marvinより読みにくい」割合70〜80%のグループ内での読みやすさ順を比べるため、A to Z Mysteriesを基準軸として、「読みやすい」、「同じくらい」、「読みにくい」の集計をしました。(詳細はExcel表「A to Z 軸」参照)

 


 


この表を見ると、

        A to Zより読みにくい」が30%台

Zack Files, Nancy Drew, Fullhouse Michelle

        A to Zより読みにくい」が60%台

Maximum Boy

となり、Maximum Boyが突出して読みにくいと感じられていることが分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.回答者のコメントから浮かび上がった各シリーズの特徴

 

回答者のコメントを見ると、まず、子どもの日常生活を描いたシリーズか、不思議な事件が起こるなど非日常を描いたシリーズかによって、好み、読みやすさに大きく影響がでるようです。日常ものは内容を推測しやすく親しみやすいという良さがあり、非日常シリーズには奇想天外な設定を楽しめる良さがあります。対象シリーズを「日常グループ」と「非日常グループ」に分け、それぞれのシリーズの特徴をまとめました。

 

<日常グループ>

1)Cobble Street Cousins

 挿絵が非常に多い。挿絵が文章にあっているので、知らない表現も推測しやすい。総語数も最も少なく3000語程度。一番読みやすいとの声が多い。ただ、主人公の従姉妹3人の区別が最初つきにくい。また、一つ一つの文をみると、構造的にはそれほど簡単ではないものもある。

 

2)Marvin Redpost

 子どもの頃の気持ちに戻ってMarvinに感情移入でき、どんどん読めたという声多数。挿絵も分かりやすい。「もっと味わって読みたい」「読み飛ばしたくない」という欲求が強いと、それが「読みにくい」につながる場合がある。

 

3)A to Z Mysteries

 日常生活+推理。推理がある分だけハードルが高くなる。主人公の3人組のキャラクターが頭に入れば読みやすくなる。冒頭の地図も大きな助けになる。

 

4)Nancy Drew Notebooks

 日常生活+推理。これも推理でハードルが高くなるが、謎解きがワンパターンなので慣れると読みやすい。文章は、Zack Filesのようないまどきの小学生風でなく落ち着いている。挿絵は地味めで評判がよくなく、ストーリー理解にもあまり効果的ではない。また、意地悪な友達、イザコザなど、内容的に自分に合わなかったという声が複数あり。

 

5)Fullhoue Michelle

 Nancy Drewと似た読み心地という意見が多い。挿絵はない。Nancy Drewよりは会話が生き生き(口語表現が多め)しているという声あり。テレビシリーズから親しみを持っている人が多い。主人公のMichelleがトラブルにはまって悪戦苦闘する部分が長いので、退屈に感じたり、先を読むのがつらいという意見も複数あり。

 

<非日常グループ>

1)Flat Stanley

 挿絵が多い。主人公がぺちゃんこになった体を生かして何かをするという設定がとても分かりやすく、非日常のシリーズの中では随一の読みやすさ。長い文章がよくでてくる。

 

2)Magic Tree House

イラストが多く、毎回パターンが決まっているので慣れれば非常に楽。しかし主人公の2人が行く場所によって読みやすさに差がでる。読み始めたばかりの人と、慣れた人との読みやすさ評価の差が大きい。

 

3)Zack Files

Zack少年に様々な不思議な出来事が起こるという設定。Zackの今風の口調が面白い、ぶっ飛んだストーリー展開が面白いという人が多い一方で、突飛な出来事が受け入れられない人は読みにくく感じている。設定が突飛なだけに、キーワードとなる単語の推測がつくかつかないかで面白さが大きく変化する。シリーズ後半から挿絵が減り、難しくなってくる。

 

4)Maximum Boy

語数が1万語程度と多め(日常グループのNancy, Michelleと同程度)。Zack Filesと同じ著者。Zackより挿絵が少なく、戦闘シーンなど単語を推測しにくい場面も多い。ナンセンスさが笑いのツボにはまる人には読みやすく感じる。

 

5)Catwings

対象シリーズの中では段違いに難しいと答えた人が多い。文の構造も複雑なものが見られる。しかし芸術的な美しい文体が大好きという人が多い。豊かな内容だけに、もっと理解したいという欲求が強まり、「冷静に考えると自分にとってMagic Tree Houseと理解度は同じくらいだった気がするが、難しく感じた」という意見あり。たくさん挿絵があるので、ストーリーが映像として浮かぶ人は読みやすく感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.対象シリーズ読みやすさ相関図

3での集計値と、回答者のコメントを総合して、下のような相関図を作りました。

 

Cobble Street Cousins

(日常)3000語 挿絵が非常に多い

 
読みやすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


読みにくい

 

 

 
     で囲んだ場所がそのシリーズの読みやすさのポジションです。

(例:Catwingsは多くの人が最も難しいと回答しているので、一番下(読みにくい)に位置している)

 しかし、挿絵の量、キーワードが分かるかどうか、総語数など、様々な要因で読みやすさの感じ方に幅がでます。それを         で表しています。

 

(例:Catwingsは、素晴らしい挿絵がたくさんあり、映像をイメージして読める人はもっと読みやすく感じる)

様々な要因に関わらず、「好み」のシリーズであれば、どのシリーズもぐっと「読みやすい」方向へ持ち上がります。

 

6.YLをつけてみると?

 

4の相関図を数字に表すのは難しいですが、あえてYLに換算してみました。

1)基準本 

Marvin Redpost

 

2)MarvinのYL

YLを決める場合、まず基準本のMarvinのYLをいくつにするかによって全体が変わります。Marvinは、レベル2で読めたという声も多いですが、レベル2グループの中では難しいので、仮にMarvinをレベル2後半(YL2.5-3.0)とします。

 

3)調査対象シリーズのYL(案)

YL2.0-3.0 Cobble Street Cousins、Flat Stanley 

YL2.5-3.0 Marvin Redpost (基準軸。レベル2後半)

YL2.5-3.5 Zack Files (Marvinよりは難。語数はMarvinと同程度か少ない)

YL2.5-3.5 Magic Tree House

Zackと同じYLだが、その意味合いは違う。読み易さのばらつきが大きいのでYL幅1.0以上にしたい。しかし、初めて手に取るにはつらいので、YL2.0〜にはしない。)

YL3.0-3.5 A to Z Mysteries、Nancy Drew Notebooks、Fullhouse Michelle

A to ZはもっとYLが上かもしれない)

YL3.0-4.0 Maximum Boy

YL3.5-4.5 Catwings (Catwingsは別格との声多い)

 

7.(参考)Lexile Levelとの比較

 

 Lexile Levelとは、アメリカの会社の作った読みやすさの指標で、Lexile Frameworkというソフトウェアで本の文章を解析して難度が算出されます。Scholastic社のリーディングプログラムに採用されており、Scholastic Reading Counts!というWebsiteでは、アメリカで出版されている主要児童書のLexile Levelや総語数などを調べることが出来ます。

http://src.scholastic.com/ecatalog/default.asp?

 Lexileでは、本の難度を大きく2つの基準で解析しています。ひとつは「文の長さ」、もうひとつは「本に出てくる語彙が、一般的に良く使われる頻度の高い語か、頻度の低い語か」ということです。ひとつの文が長いと、文の構造が複雑である確率が高いし、使用頻度の低い語は難解な語である確率が高くなります。

 上記2つは読みやすさを決める大きな要因ではありますが、Lexile Levelでは、挿絵の多さ、活字の大きさ、ストーリーへの親しみなどは考慮されないため、今回掲示板で行った調査結果とは、かなりズレています。

(例えばFlat Stanleyは640Lで、Darren Shan(650L)とほぼ同じLexile Levelであり、Maximum Boy(580L)よりも難しいと判定されている。)

 

参考】Lexile Level    Scholastic Reading Counts!より


注)Fullhouse MichelleのLexile Levelは検索できませんでした。

 


8.タドキスト大会での質疑より

 

質問1)子どもの場合のYLの感じ方はどうか。大人とは違うのではないか?

 

回答:確かに、大人の感じ方とは違うようです。例えばMarvin Redpostは大人にはとても共感できるという回答が多いですが、中学・高校生の場合「あまり話にのれない」「微妙」など、好まれないことがあります。また、表紙や挿絵が洒落ているかなど、内容より外見で読むかどうかを決めることも多いようです。しかし、これも「しお」「はらぺこあおむし」の見聞きした範囲のことで、一般的にそうかは分かりません。子どもについては母数が少ないため、いまのところ傾向が見えていません。

 

質問2)Lexile Levelだけでなく、Reading Level(注)との比較はどうか?

(注)Reading Level(RL)もアメリカの児童書の読みやすさレベルです。児童書の裏表紙によく記載されています。例えばRL:2.0は、小学校に入って授業を2年受ければ読めるレベル、RL2.3なら、授業を2年3ヶ月受ければ読めるレベル、という意味です。RLもLexile Levelと同じく、Scholastic Reading Counts!のページで調べられます。

 

回答: ページ数の関係で大会用データには掲載しませんでしたが、Reading Levelとの比較もしています。Reading Levelのほうが、Lexile LevelよりはややYLに近いようです。(詳細は、Excel表「RL順」を参照)

 

9.終わりに

 

掲示板に寄せられた様々な回答を読んで、読みやすさの感じ方は実に様々だとあらためて感じました。読みやすさに影響を与える要因は、単語や文法、総語数だけではなく、挿絵、登場人物の多さ、活字の大きさや行間、設定が日常か非日常か、好みにあう本かどうか(これが最も重要!)など、まだまだたくさんあることが分かりました。たくさん回答を寄せていただいたおかげで、一定の傾向が浮かび上がってきて、なんとかグループ分けをすることができました。この調査が、初めてレベル2〜3の児童書を手にとってみようという方に少しでもお役に立てば幸いです。

実は、この調査中に初めてLexile Levelの存在を知り、「こんなソフトウェアがあるなら、いままで苦労してきたYLはどうなる?いらなくなるかもしれない。」と思いました。しかし、Lexile Levelには、日本人の多読学習者の感覚と食い違うところもたくさんあり、人間の主観で決めたYLも、曖昧なようでなかなか役に立つではないかと思えました。

今回のアンケートに答えて読みやすさ順をつけるのは相当難しかったことと思います。そこを挑戦してくださったたくさんの回答者の皆さん、本当にありがとうございました!