ちょっと変わった本を2冊ご紹介します。

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13487. ちょっと変わった本を2冊ご紹介します。

お名前: wkempff
投稿日: 2019/1/11(21:47)

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たびたびお邪魔しておりますwkempffです。

みなさま本年もよろしくお願いします。

この年末年始、非常にユニークな本を二冊読みましたのでご紹介します。
かなりの洋書ファンの方もあまり読まない本でしょう。たぶん、GrishamやConnellyの新作を読む人より、一桁か、場合によっては二桁くらい少ないのではないでしょうか。
しかし、どうしょうもない本か、というと、そうでもなく、もしかしたら興味を持たれる方もいらっしゃるか、と考えました。
本音は、けっこうけっこう時間をかけて読んだので、早めにご紹介したい、ということなんですけれどね。特にMilkmanは大変でした。

両方とも明るい話ではありませんがご容赦ください。

一冊目。ドキュメンタリーです。

Dead Mountain: The Untold True Story of the Dyatlov Pass Incident,
By Donnie Eichar

YL 8.0、お薦め度★★★★☆

世界でもっとも不気味で原因不明の山岳遭難事故として有名なディアトロフ峠事件を再調査し、事故原因の有力な仮説を提示するものです。

1959年、ウラル工科大学学生や卒業生の9人のパーティは、厳冬の北ウラルの山中で遭難し、全員亡くなりました。
9人の学生は雪山経験豊富な屈強の若者で、マイナス30度の厳冬に、Holatchahl山のなだらかな東斜面にテントを張りますが、靴をはかず薄着のままテントを内側から切り裂いて飛び出して遭難。遺体はテントから1キロくらいのところで散らばって発見されました。舌や眼球を失っている遺体もありました。
この遭難事故はソ連政府によって強引に原因究明を打ち切られますが、ゴルバチョフ政権の雪解け政策で古い調査記録の一部が公開され、多くの人の注目するところとなりました。パーティの足取り、事件直後の調査隊や遺族の動き、そして著者自身の調査の進捗が交互に語られ、遭難の日に収斂していきます。遭難した若者たちの足取りは日記や写真に残っており、入念に山行を準備しチームワークよく楽しげに山に分け入ったことがわかります。
しかし遭難の原因はわからず、雪崩説、原住民襲撃説、雪男説、UFO節、秘密軍事訓練に遭遇して消された説、など諸説が飛び交っている状況です。

著者はフロリダ生まれの映像作家で、およそ雪山とは無縁の人物ですが、この事件について声高に諸説を唱える人が誰一人として厳冬の北ウラルに現地調査に行っていないことに気づきます。著者は、ロシアでこの事件の記録を保管する財団と連絡を取り、ロシアで関係者や遺族にインタヴューし、ついに厳冬のウラルに乗り込んで現地調査を行います。
著者は、アメリカの学者の助けを借りて、ひとつの仮説に到達します。60年も前の事件であり、この説が正しいかどうかは誰にもわかりませんが、荒唐無稽な諸説(雪男やUFO)よりはるかに説得力があります。

旧ソ連の政治情勢は色濃く反映されています。周辺都市の役割(政治犯収容所のある都市を通過したりします)など考えながら読むと、いっそう興味を引きます。

たいへんに面白いのですが、実話の悲劇が題材ですので、お薦め度や星4つとしました。

日本語訳があります。
「死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相」
安原和見訳
なんと書店で平積みされています。

さて、二冊目、私の天敵、ブッカー賞受賞作です。
ブッカー賞は、そう簡単に読めない複雑怪奇な作品ばかり受賞し、私のような英語力の低い日本人には読み通せない、というのを選考基準にしているのではないかと疑っているのですが、今回はもう意地です。

Milkman, by Anna Burns

YL 9.5~10.0、お薦め度★★★★★ (本音は★★☆☆☆くらいかな)

2018年のThe Man Booker Prize (ブッカー賞)は、おおかたの予測を裏切り、Anna BurnsのMilkmanが受賞しました。
Anna Burnsは北アイルランド出身の女流作家。

主人公は18歳の女性。実名は登場せず、彼女の一人語りで物語は進みます。また、舞台となる都市も国も明らかにされず、兄弟や隣人の名前もほとんど明らかにされません(ma、wee sisters、 third brother-in-law、tablet girlなど)。
主人公はMilkmanと呼ばれる中年男性にしつこくストーカーされます。Milkmanは実は牛乳屋さんではなく、テロ組織の有力者のようです。
彼女は母親にも友人たちにも沈黙を貫き、いつしか、主人公はmilkmanと愛人関係にあり男友達と関係を持ってmilkmanを裏切った、と噂されるようになります。
住民と政府が対立し、住民同士も対立し、爆弾テロが頻発し、多くの住民は家族の誰かをテロで失っている、という、とんでもない世界。
彼女は、ついに危険人物視され殺されそうになります。

舞台は小説中では語られませんが、IRAのテロが跋扈していた、紛争がもっとも激しかった1970年頃の北アイルランド、その中心都市のベルファストが舞台と推測されます(作者の出身地でもありますし)

読みにくい、実に読みにくい小説。
これほどわかりにくく陰惨に書かなくてもいいのではないかと思うんですけれどね。
語彙レベルが死ぬほど高く、一文が異常に長く(100語、なんてざらです)、一段落が異常に長く(1000語以上)、会話もなにもまったく改行されずに続きます。

北アイルランドの社会情勢を題材に無責任な住民の「噂」や「集団真理」の恐ろしさをテーマとした大傑作、という評価が大勢を占めます。しかし、あまりの読みにくさに酷評する向きもあります。

例を挙げましょう。

One of the Booker judges defended “Milkman” by claiming it wasn’t too hard to read compared with reading “articles in the Journal of Philosophy,” which caused book publicists around the world to choke violently.
Dec 4, 2018, Washington Post

「Milkmanはブッカー賞らしく「罰ゲームですか?」みたいな文章」
渡辺由佳里さん(最新の洋書を日本に紹介する活動を継続している文筆家)のTwitter

私は、正確にこの小説を理解したかどうかも自信ありません。
最重要単語であるrenouncerやbeyond-the-paleも、正しくニュアンスを理解できているか自信ありません。なにせ、北アイルランドの雰囲気など予測しようもありませんから。

チャレンジャーの皆様と苦労を分かち合いたく、どなたか読みになって感想を教えていただければ幸いです。チャレンジャー求む。そういう意味の★5つです。

ということで、1500万語を通過したら、もう少しまともに読めるミステリーなどをご紹介いたします。


▼返答


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