Re: 多読5周年記念、最近のエドガー賞最優秀長編賞紹介

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13482. Re: 多読5周年記念、最近のエドガー賞最優秀長編賞紹介

お名前: wkempff
投稿日: 2018/10/12(19:25)

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最近のエドガー賞(長編小説賞)作品
エドガー賞は全米探偵小説家協会の賞で、さまざまなジャンルがあります。その中でもっとも上位に来るものが最優秀長編小説賞です。日本でいうと直木賞に相当するかと。文学のプロとしての選定でありながら、一般民衆の好みも加味されており、普通の人にはなかなか読み通せない複雑怪奇な作品を選定するブッカー賞(イギリス連邦でもっとも権威があります)や、ときに政治的メッセージが前面に出すぎるノーベル文学賞の受賞作よりは安心して読めます。
気づいてみれば、2011年からのエドガー賞受賞作(最優秀長編小説賞)、全部読んでいました。すでにご紹介していますが、この機会に一気にご紹介します。読みやすさレベル(YL)を独断と偏見で付け直しました(書評システムへの私の投稿と少し違っています)。当然、お勧め度も独断と偏見です。
2016年あたりから、少し受賞作の傾向が変わっている気がするのですが。。。。
時に趣味に合わない作品にも当たりますが、読むものに迷ったらエドガー賞受賞作、という選び方もあるかと考えています。

下記、YLはできるだけSSSの皆さんの基準に合うように再度設定しました。お薦め度は★★★★★が最高ランクになります。日本語のタイトルが書いてあるものは、日本語訳の書名です。

2018年、Bluebird, Bluebird, by Attica Locke
YL 8.5、お薦め度★★☆☆☆
自分の故郷であるテキサスの田舎町で起こった黒人男性と白人女性の殺人事件を、黒人Texas Rangerの主人公が追います。Texas Rangerは州警察に相当しますが、体質は非常に古く、白人至上主義が跋扈しています。また、Texasの田舎街は特に差別感情が酷く、主人公は白人コミュニティに歓迎されないばかりか、Rangerの一員であることで黒人社会ららもバリアを張られます。
主人公と妻や母との関係がサイドストーリーになっていますが、なんとなく歯切れが悪く、後味があまりよくない小説です。表現が直接的でない英語で読みやすくありません。

2017年、Before the Fall(晩夏の墜落) Noah Hawley
YL 8.0、お薦め度★★★★☆
リゾート島からニューヨークに戻るプライベートジェットは、メディア王と投資家の一家を乗せ、大西洋に墜落します。ここになぜか貧しい画家が乗り合わせ、九死に一生を得たばかりか、メディア王の長男を救出して荒海を泳ぎきります。しかし、マスコミや司法は必ずしも画家に好意的でなく、画家犯人説まで蔓延していきます。主人公である画家は、身を隠していましたが、ついに好意的でないマスコミと対峙することになります。
小説は、飛行機に乗り合わせた富豪たちの一家のみならず、パイロット、副操縦士、CA、ガードマンの過去まで掘り下げて生きます。当然、墜落の原因にほとんどは無関係です。
しかし、大富豪の生活、フェイクニュース、マネーロンダリング、トロフィーワイフ、など、アメリカ最上層の実態を描いた、実に重厚な人間ドラマになっています。ミステリーとしてみると墜落の謎を追うには余分なピースがたくさんある不思議な作品。

2016年、Let Me Die in His Footsteps (土中の記憶) Lori Roi
YL 8.5、お薦め度★☆☆☆☆
アメリカ最後の公開絞首刑から着想された、おどろおどろしい作品。
ケンタッキーの田舎町では、少女が15歳と16歳の誕生日のちょうど中間の日に井戸を覗くと将来の夫の顔が見えるという伝説がありました。しかし、主人公が井戸に近づくと、将来の夫どころか、対立する家の老女の遺体につまずきます。この老女の息子は婦女暴行の罪で18年前に公開絞首刑になっていますが、被害者の女性が魔力を持ち漆黒の瞳で誘惑したとうわさされ、この女性は忽然と姿を消していました。主人公の少女はこの女性の姪であり、自分の容姿この女性に徐々に似てきていることに気づいてきます。
物語は実にゆっくりゆっくり進み、田舎の閉塞的な人間関係、家の対立、度重なる失踪事件、公開絞首刑、など、陰惨さを増していきます。行ってみればアメリカ版八墓村。
難しい単語が使われるわけでもない、複雑な構文が出てくるわけでもないけれど、なにか霞がかかったような感覚を覚える英文で、話がなかなか展開しないこともあり、決してやさしくありません。
作者は、この作品が3作目の女流新人、前2作は、エドガー賞新人賞、最優秀長編賞ノミネート、と、エドガー賞とは非常に相性が良いようです。

2015年、Mr. Mercedes (ミスター メルセデス) Stephen King
YL 7.5 お薦め度★★★★★
なぜいまさら大御所Kingにエドガー賞?といぶかしく思いましたが、読むと納得させられます。
ロサンゼルスの職業紹介フェアの開場を待つ求職者の列に大型のメルセデスが故意につっこみ、8人が死亡する大惨事になりました。しかし、車は盗難車で、犯人は逃げおおせてしまいます。
これは主人公の老刑事が定年前に手がけた最後の事件でした。老刑事は引退後に無聊の日々を送っていましたが、ある日、犯人から挑戦状が届き、近隣に住む秀才の黒人青年、メンタルに疾患を抱えながらITに強い白人中年女性とともに、事件解決に乗り出します。しかし、犯人は、さらに大規模なテロを計画しているらしく、主人公たちは時間と戦いながら大規模テロ阻止に奔走します。
ホラーの大家Kingのクライムもの。超常現象的な要素はなく、King節を残しながら切れのよい文章でどんどん話は展開します。King作品の中では例外的に読みやすく(日本人には、です)Kingを最初に読む人にお薦めしたい傑作。3部作になっており、この作品が最初の作品です。

2014年、Ordinary Grace (ありふれた祈り) William Kent Krueger
YL 7.0 お薦め度★★★★★
ミネソタの田舎町の牧師の長男である主人公は、吃音のある弟を従えて静かに夏休みを過ごしていました。主人公の姉は音楽の才能があり、音楽学校への進学が決まりかけていました。しかし、ある日、姉が失踪、ほどなく、遺体となって発見されます。
悲劇の原因や犯人を追うミステリーの要素もありますが、悲劇を乗り越える家族の絆、それを支える隣人愛を描く、感動的な作品。
13歳の少年の目から語られる、流れるような、実に読みやすい英文です。

2013年 Live by Night (夜に生きる) Dennis Lehane
YL 9.0 お薦め度★★★★☆
1929年、ボストンのゴロツキだった主人公は、マフィアの情婦と通じて命を狙われますが、闇酒場襲撃の罪で父親である警察官に逮捕され、服役します。刑務所内でマフィアの頭目の知遇を得、フロリダに渡り、抗争に次ぐ抗争を乗り切ってマフィアのボスにのし上がっていきます。仲間や恋人の裏切り、多くの殺人などギャングものの王道ですが、ほの暗いトーンが漂っています。名文家の誉れ高いLehaneの作品ですが、1930年代(禁酒法時代)中心の物語で見慣れない単語もあり、かつマフィアの会話には隠喩が多く、相当に読みにくいです。
作者は、Mystic RiverやShutter Islandの著者、名文家として名を馳せています。

2012年 Gone (喪失) Mo Hayder
YL 8.5 お薦め度★★★☆☆
イギリスの地方都市ブリストルを舞台とする刑事もの。カージャック事件が発生、車の後部座席には少女が乗ったままでした。少女の行方に手がかりは無く、警察と家族をあざ笑うかのように犯人から脅迫や挑発が続きます。主人公のキャフェリー警部は同僚の女性刑事の助けを借りて事件を追いますが、以前のおぞましい事件の記憶がよみがえってきます。腐臭漂う地下下水道の攻防が作者のひとつの持ち味。
Mo Hayderは、殺人現場や腐乱死体など過剰にリアルな残酷描写が持ち味の女流スリラー作家。この作品は、相当に残酷描写を抑え、受賞に至りました。プロットの構成はみごとです。

2011年 The Lock Artist (解錠師) Steve Hamilton
YL 7.0 お薦め度★★★★★
主人公はハンサムな青年ですが、幼少期のトラウマで声を失い、言葉を発することができません。孤独な少年時代を、絵を描き、錠前を解錠してすごしていました。彼に美しいガールフレンドができますが、彼女の父親が事業の失敗からギャングに恐喝されます。主人公は、彼女と家族を救うために、ギャングの一味に加担、凄腕の金庫破りになり、犯罪を重ねていきます。シンプルな道具で時間と戦いながら錠前を破る緊張感あふれるシーンが特徴。クライムものでありながら青春小説のようにすがすがしい小説。文章は明快、短文を重ねる文体で、洋書をはじめて読む方に強くお勧めします。


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