星の王子さまThe Little Princeの主題と構造(ネタバレ)

[掲示板: 〈過去ログ〉本のこと何でも -- 最新メッセージID: 3237 // 時刻: 2024/4/29(04:00)]

管理用 HELP LOGIN    :    :


上へ上へ | 前のメッセージへ前のメッセージへ | 次のメッセージへ次のメッセージへ | ここから後の返答を全表示ここから後の返答を全表示 | 返答を書き込む返答を書き込む | 訂正する訂正する | 削除する削除する

[バレ] 2576. 星の王子さまThe Little Princeの主題と構造(ネタバレ)

お名前: 主観の新茶
投稿日: 2008/5/8(19:45)

------------------------------

第1 読んだ本
 THE LITTLE PRINCE 星の王子さま英語版
 PUFFIN BOOKS
 小説の筋書きを追うのではなく、抽象化するから、ネタバレではないかもしれないが、一応、ネタバレとして扱う。

第2 考察
1. 作者の生涯
 サン・テグジュペリは、1900年6月29日に生まれ、1944年7月31日に死亡した。星の王子さまは、1943年に出版された。
 彼の死は、謎であったが、先ごろ、第2次世界大戦で、彼の乗った飛行機を撃墜したと告白した、元ドイツ空軍男性兵士88歳が出現したことは、記憶に新しい。

2. 童話の主題
 この童話の内容は、もし、ただひとつの主題を掲げるときは、唯一愛する一輪の花との関係改善を模索する話である。というのは、全編を貫いているのは、a flowerのことだからである。

3. 分析の方法
 現実のテグジュペリにおいて、唯一の女性が、何歳の時、はじめて、よくやく出現したのか、私は、彼の人生を知らないし、その出現前は、many flowers に没入していたかどうかも、知らない。最近は、真実に近づいた伝記等も出版されているようだ。しかし、彼の主張と現実とが相当程度に違っていたからといって、落胆したり憤激したりする必要はない。ここでは、あくまで、書物を媒介として、内容を検討する。神秘的に見えたこの物語を、白日に曝そうというもくろみである。

4. 全27章の分類
 全27章の分類は、いろいろな理解があろうが、私は、(1)テグジュペリの前に王子が出現し花と別れるいきさつを追憶するまでの第1章から第9章、(2)王子が花との関係改善を模索し、かつ、気の合う男性との交流を求めて、6星の住民に面会し失望するまでの第10章から第15章、(3)第7星である地球における男性達(snake, fox, railway switchman, merchant)及び女性達(flowers)と交流し、やはり満足できないでいるまでの第16章から第23章、(4)再びテグジュペリと王子が対話かつ行動し、テグジュペリが星に帰った王子を追憶するまでの第24章から第27章の4つに分類する。もとより、星の王子さまは、テグジュペリの自問自答である分身であるし、王子の経験は、テグジュペリ自身の現実または想像上の経験である、といってよいだろう。

5. 星の王子さまの矛盾した行動
 王子は、世俗的な男性が、invisibleなものが見えないから、ともに語るに足りないと断じている割には、世俗的な男性と交わりを求めるが、ただ一人の女性が唯一この世で大事なのに、王子の統治する星を出奔し、女性を一人彼の地に残してしまう、という矛盾した行動を取る。作者は、王子に、矛盾した行動を、強いて取らせているのである。

6. invisibleの意味
 作者テグジュペリは、再三、最も重要なもの、もっとも本質的なものは、目に見えない(invisible)ものであると主張する。しかし、彼の主張するinvisibleとは、帽子ではなく、うわばみa boa constrictorに内包された象というvisibleなものであり、a boxに隠されたa sheepである。テグジュペリは、見えないものは、心霊現象、妖怪、魔術といった超自然現象を述べているのではないし、法律、経済、金融など目に見えないシステムや制度を述べているのでもない。彼が述べているのは、純真な子供のころに興味を持った動物、星、描画などを意味するのであって、これが、invisibleの正体である。

7. tameの意味
 tameは、この物語のキーワードである。第21章において、キツネは、王子に対し、tame me と請うて、王子は、キツネをtamedするし、このキツネの言葉に触発されて、a fower.   I think she has tamed meと述懐する。
 かつて星の王子さまを翻訳した数種の本のうち、tameの部分を比較した新聞記事か何かを読んだことがある。いずれも、辞書に書いてあるような、飼育する、慣れ親しむ、馴致する、飼い慣らす、などの訳になっていたと思う。しかし、この本の全文を読むと、日本語の訳は、思いきり、意訳することが必要だろうと思った。
 私は、星の王子さまは、tameとは、対キツネとの関係では、「精神的に気の合う特別な存在になった」と訳すべきであり、a flowerとの関係では、「精神的及び肉体的に唯一の特別な関係になった」と訳せば足りると思う。もっとも、tameには、おそらく、対等な関係が始まったというより、一方が他方より本来は優越的な地位にあり、「一方が他方を調教する」というような語感があるように思える。フランス語の原語が、どうなっているかは、わからないが、英語では、そのように思える。漢語でいうと、「馴致じゅんち」、つまり、だんだんと慣れ親しませ抜き差しならぬ関係になった、というものであろう。したがって、正確に言えば、対キツネとの関係では、「王子が、友人関係を請うキツネに対し、精神的に気の合う特別な存在であると認めた」と訳すべきであり、a flowerとの関係では、「花が、王子に対し、精神的及び肉体的に唯一の特別な関係を維持することを求めた」と訳すべきであろう。

8. 王子が花を愛し続けなければならない理由
 作者は、王子が花を愛し続けなければならない理由について、王子をして、「花は、weakであり、naiveであり、全世界を相手に、4本の棘thornで戦うことができると思っている、けなげな存在である」からであると述べさせている。花にもいろいろあるが、王子は、バラの花であると述べている。バラの年齢、経歴、貴賤、信条、思想などについては、一切記載されていないが、王子は、バラとうまくいかなかった理由について、王子自身が若かったからであると弁明している。Every rose has its thornのことわざは、美しいバラには、棘があるということであるから、王子が愛したバラは、他の男性からも注目を浴びる存在であった。baobabsを退治するa sheepは、a flowerを食べてしまう危険性を有するというくだりは、これを暗示する。伝記によると、貴族社会、作家社会に生きる作者の現実も、同じであったらしい。とはいえ、作者は、非現実の世界であるこの童話において、女性というのは、古典的な意味で、弱い存在であるといっているとしか読めない。ここが、同じく「守ってほしい」という抽象性の具体化において、現在と、全く違うと思う。しかし、この童話も、作者も、いまだに、むしろ、女性に人気があるのではないだろうか。しかし、それは、時代錯誤ではないだろうか。新しい星の王子さまの文学が必要なのではないだろうか、と考えた。すると、星の王子さまの魅力は、謎かけのような文章にあるとはいえ、今後人気が沸騰することはあるまい。

第3 結語
 この童話は、偶々、大学1年時に購入した本が残っていたのを発見したので、シミのついた本を再読した。
 わからない単語は、少なからずあった。しかし、内容を捕捉すればよいのであるから、単語がわからなくても、よしとした。
 この童話は、私にとって、もはや神秘性を喪失したことがわかった。
 これは、楽しい発見であった。


▼返答


Maintenance: SSS 事務局
KINOBOARDS/1.0 R7.3: Copyright © 1995-2000 NAKAMURA, Hiroshi.