ORTと日本の英語の教科書の違いに関する論文を読んでみました

[掲示板: 〈過去ログ〉多読と英語学習・試験に関する掲示板 -- 最新メッセージID: 1756 // 時刻: 2024/6/3(04:11)]

管理用 HELP LOGIN    :    :


上へ上へ | 前のメッセージへ前のメッセージへ | 次のメッセージへ次のメッセージへ | ここから後の返答を全表示ここから後の返答を全表示 | 返答を書き込む返答を書き込む | 訂正する訂正する | 削除する削除する

1262. ORTと日本の英語の教科書の違いに関する論文を読んでみました

お名前: pandada45 http://kusaeigo.blog101.fc2.com/
投稿日: 2012/11/8(21:41)

------------------------------

ORTと日本の英語の教科書の違いに関する論文を読んでみました

多読学会の報告論文紹介に、ORTと日本の英語の教科書の違いに関する
論文があったので、ざっと流し読みをしてみました。

高名な研究者かもしれませんのでいろいろな人から怒られるかもしれ
ませんが、勝手な解説を試みました。

http://jera-tadoku.jp/papers/2012-talase-kansai_eigokyoiku-20120222..pdf
多読用図書教材が英語習得に及ぼす影響
—L1 児童用英語絵本と中学英語教科書との違い—

なお『』で囲った部分は引用箇所です。

解説

まず「背景、研究の動機」の確認です
『1.はじめに』の中の次の文章が代表と思います。

『中1、中2 から英語が理解不可能となり、そのまま英語苦手意識を大学ま
で引きずってきた学生が少なからず存在している(Takase & Otsuki,2012)。
ところが、彼らに多読を導入し、英語圏(L1)の児童が母語を学ぶために書
かれた絵本を大量に読ませると、約3 か月間で100 冊以上の本を読み、結果
的に英語力が向上することが認められた(Takase, 2009; Takase & Otsuki,
2011)。』

『そもそもの目的は両者とも英語習得のために作成されたテキストである
が、対象読者が違うため内容・構成に大きな違いがあるのは当然であろう。
ただ、両方の教材を使用した日本の中学・高校生および大学生にORT がどの
ような影響を与えたか、またその原因はどこにあるのかを探るのは、今後の
英語教材を作成する上で参考になると考えられる。』

次にこの論文で言いたいこと、実証したい「仮説、設問」です。それは
『1.はじめに』の中にあります。

『本稿では主に多読初期に使用されるL1 の児童絵本の代表であるOxford
Reading Tree (ORT) を精査し、全体の特徴、文法・語彙の導入方法に関
して、全国の多くの中学で採用されている文科省検定教科書との比較を試
みた。』

「仮説、設問」に対する「結論、解答」は『4.結果と考察』にあります。

『つまるところ、これまで見てきた検定教科書とORT の英語の提示法の違い
は概念としての文法の違いとして集約されるだろう。Carter & McCarthy
(2001) はdeterministic grammar とprobabilistic grammar という二つの
文法概念を提唱している。彼らによると前者は構造上の規範を扱う。即ち、
その言語の文法の核となるルールとなるものを扱う。英語で言えば三人称単
数現在は動詞にs をつけた形で表されるといったことである。これはその言
語で「きまったこと」であり、それ故、正しい用法か否かという問題にな
じむ。それに対し、probabilistic grammar はある特定のコンテクストでそ
の言い方(形式)が適当かどうかを述べるものである。これはルールという
ほど厳格なものではない。この種のgrammar は、ことばでもって誰に、どの
ような手段で、どのような状況で何を伝えるかという多様な要素によって中
身の変わるものなので、むしろルールとして提示することになじまない。明
文化された形式に関する文法だけでは説明しきれない問題を扱うこととなる。
このタイプの文法こそが、ORT の多読がその真価を発揮するであろう帰納法
(Inductive approach)によって可能となるものであると思われる。』

誤解を恐れずに「結論」をまとめてみると
「日本の英語の教科書とORTの違いは文法の扱い方にある。日本の教科書
はルールとして文法を扱っている。しかしORTはではこんな時にはこのよう
な言葉遣いが多い、この言葉を選んだ方が馴染むといった形で扱っている。」
でしょう。

研究論文ですので、「考察」が大切です。考察は『5.おわりに』の中にある次の文章と思います。

『日本の言語環境ではORTのような多読教材だけでは文法項目の習得は難し
いであろうが、検定教科書とORT のような多読教材を併用することで、形
式を定着させ、また実際にその形式が使われる場面に多く触れることで、
言語使用状況の疑似体験をする機会を提供できるのではないだろうか。』

以上が大筋です。

私の感想です。

この論文の考察に対しては、多分多読をしている多くの人が感じていること
ではないでしょうか?勉強ばかりしてきた人は、多読をするとすごく進歩し
た実感がある。でも、多読だけを続けていると進歩が止まってしまう。
なので、英語能力の向上には文法や語彙の形式的な獲得とともに、それらを
定着させるために実際に使っている場面に多く触れることが必要であると。

このような研究が進むと多読に対する誤解や偏見が無くなると思います。


▼返答


Maintenance: SSS 事務局
KINOBOARDS/1.0 R7.3: Copyright © 1995-2000 NAKAMURA, Hiroshi.