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伊藤和夫氏(元駿台英語科主任)の英語教育論

伊藤和夫氏(1927-1997)は、東京大学文学部哲学科卒業後、横浜の山手英学院を経て、駿台予備学校の主任講師として、「受験英語」を確立されました。「書いた原稿1万ページ、売れた本1000万冊、教え子100万人」といわれており、受験英語のみならず、日本の英語教育全体に非常に大きな影響を与えました。1997年1月、肺ガンのため逝去されました。さて、伊藤氏は、生前、学校英語を強く批判され、次の様に述べています。

 ”筆者が恐れるのは、学校英語が根本的に「箱庭英語」であり「ままごと英語」であって、原理的にその外に出られないことが早晩白日のもとにさらされ、筆者を含めて全国の英語教師は転職を要求されることになるか、しからずんば、英語を教えるために英語教師があるのではなく、英語教師がいるために英語を教えるという逆転現象が生じ、学生がその最大の被害者になることである。”  (「予備校の英語」研究社 1997刊 p12)

これは至言であり、筆者(古川)も基本的に同意見です。しかし、丸山真男の「英語は直読直解で」という主張に対する、伊藤氏の次の様な主張には残念ながら同意できません。

 ”たしかに、一部少数の最優秀の学生はどんな複雑な現象の中からも自分の力で意識的無意識的に法則を見出していくことができる。しかし、大多数の学生は、「一度読んで分からぬところがあっても、それに拘泥しないで、もう一度そのパラグラフのはじめから、少々テンポを落としてゆっくりと読み直す、それでも分からなければ更にゆっくりと読み直し」(『勉学についての二、三の助言』(丸山真男))たところで、わからぬことは同じだし、「自分の実力で比較的容易に読める本」など、はじめからないから困っているのである。英文の意味がわからない場合、形態からする分析(もちろん、それがすべてだと言うのではない)によって正しい理解に近づくことは可能だし、英語はその種の法則性を含んだ言語なのである。たくさんやっていればそのうちわかるようになると言う人は、その「たくさん」がどれだけ膨大な量なのか考えたことがあるのだろうか。可能な場合には法則から現象を理解させるのでなければ教えるというに値しない。” (「予備校の英語」研究社 1997刊 p11)(太線部は筆者による。)

自分にとって比較的容易に読める本がなければ、あるいは、「たくさん」の量を読めなければ、丸山氏の主張は、空理空論であり、伊藤氏の主張が意味をもつことになります。
しかし、伊藤氏の上記の批判には、次の3点で重大な事実誤認があります。
1)中学1年生でも、自分の実力で比較的に容易に読める本がたくさんある
2)そんなに難しく無い英文であれば、1時間以上連続して英文が疲れずに読めるようになる英語の量は30万語程度で1年でも読書可能
3)英語の文の仕組みが自然にわかるようなレベルになるために必要な読書量は300万語程度であり、2〜3年で十分に読める量

酒井邦秀氏(電気通信大学)が、「100万語多読」を唱え、SSS英語学習法研究会が本格的に活動を始める2002年までは、易しい洋書の購入は困難であり、多読を非常に易しいレベルから始める学習者はほとんどいませんでした。ですから、伊藤和夫氏が、「多くの学習者に直読直解可能な易しい本はなく」、「英文の自然な理解のために必要な数百万語単位の読書は事実上たいていの学習者に不可能」と信じ込んだのも、当時の事情からすれば、やむを得ないことです。
しかし、SSS英語学習法研究会と各出版社の協力で、今では、YL 0.0-0.9程度の非常に易しい本だけで、1000冊以上の本が日本で購入可能です。10000冊近いやさしい洋書を紹介したガイドブックも出版されました。そして、ごく普通の社会人で、1000万語以上の多読をしている人も珍しくはありません。非常に易しい本から多読を始めれば、今まで不可能と思われていた膨大な量の英文を誰でもが読め、それを読むための具体的な方法論があるのです。

実際、SEGの中1多読クラスでは、適切な指導で、9ケ月で、平均15万語以上多読しており、12月の段階で、過半数の受講生が、1時間以上連続して英文を読みつづけることができるようになっています。

SEGの多読コースでは、文法も精読も否定しませんが、構文を解析して、日本語での思考を介在させながら英文を理解するという方法は、内容を理解する速度が遅すぎて実用にならないと考えています。SEGでは、英語学習の初期の段階から容易に読める本を多数用意し、それを利用して直読直解法でレベルを上げる具体的な道筋を教えています。多読を中心とした学習法は、英語の文の仕組みが自然にわかっていく理にかなった英語学習法なのです。

(文責 古川昭夫 2007/01/09)

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