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陳 詩遠さん
東京大学理学部物理学科4年生
麻布高校卒
SEGでは数学・物理を受講。
1989年北京市に生まれる。5歳時に来日。保育園で日本語を覚える。
中高では野球や囲碁に没頭。生真面目な性格。現在の趣味はサッカー・筋トレ・自転車の改造。

東京大学理学部物理学科4年生の陳詩遠さんに、お話を伺いました。物理学科はどんなことを勉強するのでしょうか。また、「麻布」という学校を最大限に楽しむ方法とは……?

理学部物理学科ってどんなところ?

理学部物理学科は具体的にどんなことをする学科ですか。

基本的に大学4年までは物理を勉強する学科ですね。物理学はすごく大雑把に分けると工学系と理学系の2種類があるんですが、工学は、将来社会の役に立つものを作ることを前提にした物理をやっています。機械とか、材料とかそういう系がメイン。僕がいる理学の方は、もっとこう……役に立たない物理をメインにやっています。こんなこと言ったら確実に怒られますね(笑)。えーと。人の役に立つかどうかという観点を越えた偉大なことをやっています。こっちの方が正しいですね。

すぐに何かの役に立つというよりは、もうちょっと根本的なことをやっているということでしょうか。

その通りです。原理を探究する方向です。工学は分かったことを世の中に活かす。理学は分からないものを調べる。おおまかにはそういう方向ですね。扱ってるものが基本的に逆です。

分かりやすい説明をありがとうございます。でも理学の分野で分かったことがいつか役に立つかもしれないんですよね?

そういうジャンルもあります。物性といってモノを扱っているところは主にそうです。工学部と同じようなことやっているところもあります。もうひとつは素粒子・原子核とか、純粋に知りたいことをつきつめるようなジャンルです。理学のイメージは多分こちらですね。かっこよく言えば「人の価値観を作るのがお仕事」。自然観を作る、書き換えるというか。人間が自然に対して知っている最前線を広げていく、という学科です。

その「最前線」って、身のまわりの具体的なことで言うとどんなことでしょうか。

そうですね……じゃあ、この机って何でできてますかって言ったら、木ですよね。木は何でできてるかと言ったら炭素原子ですか。さらにそれは何でできてますかって言われたら、陽子とか電子とか中性子ですよね。じゃあそいつらの中ってどうなってますかっていうのが今一番最先端です。ここより先ははっきりは分かっていない。この手のやつは終わりがないですよね。

なるほど。どうして進振り※のときにこの学科を選んだのですか。

なんか面白そうですよね。原子の中はどうなってるのかとか、宇宙はどう始まったのかとか、一般相対論とか。単純に興味ですね。後のことはそこまで考えていなかったです。仕事がないとか変な噂も色々聞きましたがそんな訳なくない? みたいな(笑)。
※進振り:東大では、2年生までは「教養学部」です。進振りとは、2年夏までの成績を元に、3年からの進学先を決めることができる東大独自の制度のことです。

物理学科の中で、みんな色々研究していることは違うんですよね?

そうですね。やってるジャンルが恐ろしく広いので研究室はいっぱいあります。半導体から流体、宇宙、素粒子まで。しかもそれが理論と実験両方ある。ひとつの分野に対して1人ずつ配置していっても80人くらい先生がいます。

陳さんはどんな研究室に行くんですか?

これから大学院で入るのは素粒子実験の研究室です。ノーベル賞を授賞した小柴さんの弟子の、駒宮先生という先生の研究室に入ります。なので小柴さんの孫弟子的な感じになります(笑)。ビッグサイエンス、世界一お金がかかっている分野と言われていて、兆単位だと思います。

それは何にお金がかかっているんですか?

施設です。

施設っていうと、スーパーカミオカンデとかアイスキューブとかそんな感じでしょうか……?

まさにそういうものなんですが、規模は規格外ですね。ヨーロッパ(欧州原子核研究機構,CERN)がお金を出し合って作った、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)という装置がスイスとフランスにまたがって地下に埋まっているんですよ。全周27kmの、山手線くらいの大きさの円の形したクレイジーな物体です。その装置の中で粒子を加速してぶつけて、できた新しい粒子を見るという実験をやっているんです。
今見つけようとしているのがヒッグスという粒子です。ヒッグスさえ見つかればほぼOKだろうという素粒子の理論があるんです。標準理論というんですけど、「大体世の中こういうものでできてるんじゃない?」というのを示した理論です。今のところかなりの精度で世の中のことを説明できていて、実験でもほとんどの部分を検証できました。でもヒッグスに関する部分がまだ何も確かめられていないんです。それさえ出れば標準理論の勝ち。人類は自然への理解にまた大きく一歩踏み出すでしょう。そういうわけで、うちの研究室のボスを始め色んな人ががんばって、そのヒッグスを叩き出そうとしています。

それは「ビッグ」ですね。陳さんの研究室の先生だけではなくて、世界中で色んな人が取り組んでいるんですか?

はい、大体2000人くらいはいると思います。スケールが大きくて、夢はいくらでもある感じです。でも今ヨーロッパが財政難でちょっと気まずい感じになっています(笑)。

夢のある大きなプロジェクトに関わっていくことになるんですね。

そうですね。そのためにこれからしばらくは下積みです。機械の使い方とかも色々覚えなきゃいけないし、実験のことも理論のことも勉強して、順調にいけば3~4年で向こうに行くことになるんだと思います。スイスの地下でひーひー言いながら粒子をぶつけると(笑)。できれば地上がいいですけど。
☆科学豆知識
このインタビューは、2011/11/29に行われました。その2週間後の12/13、CERNがヒッグス粒子の存在を示唆する事象が観測されたという会見を行いました。ニュースをご覧になった方もいることでしょう。ただしこの現象は、「偶然の可能性」もあるそうで、12/13現在、ヒッグス粒子が存在するかどうかは断定されておらず、研究を継続して観測し、データを集めることが重要だという結論になっています。

素粒子の研究室に入る、と決めるまで >>次ページへ

陳詩遠さん
理学部1号館1階ロビーで。

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