小説創作法におけるジェンダー論

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13564. 小説創作法におけるジェンダー論

お名前: 柊
投稿日: 2023/5/26(06:53)

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あまりご無沙汰していない、珍しい柊です。ちょっと考えをまとめたくなって書いてみることにしました。どなたかの参考になれば幸いですが、まあ、自分用の覚書だとしてもそれはそれでいいかな、と。

小説の創作論は日本ではあまり実践的なものがありませんでした。ここ数年増えてきた気がしますが、英語圏の、特にKindle作家は「自分はこうやってます」と具体的に紹介している人が多いです。不思議なことにこの分野、特に日本では「下手なやつはやめろ」式の作家が多いです。スポーツではすそ野を広げればおのずと山は高くなる方式の論が主流ですが、小説に関してはすそ野はいなくなれという人が多い。まあ、それは別の機会にまとまったら論じるかもしれません。

保坂和志などは読んだ人のうち千人に一人ぐらいは書けるんじゃないかと書いていましたが、英語圏の本はこれを読めばいきなり書けるはずだと断言しているものが多かったです。また、ステップ1から順々に、自分がやっている方法だけかもしれないけれども、出版するところまで全部ステップを紹介している本も多いです。かなり具体的な方法論が多く、創作論という言葉から想像するより詳細にマニュアル化されているものも多い。日本ではまだ作家は生まれつきという論が主流に思いますが、英語圏では学べる技術というのが主流で、ただ、学ばなくてもできちゃってる人がいるという論。ただ私としては、学んだあとの伸びの速さと高さと深さも人によるだろうにと思うのですが、そこは書かない方が売れるのかなあ。

参考文献としてどんな本を読んだかまとめてみます。後ろにつけるのはお薦め度マーク。◎と〇だけにしておきます。ややこしいので。

まず、男性作家から。

Donald Maass ◎
 大物エージェントで小説家の相談に乗ったり、売り込んだりするのがお仕事。大御所でフルネームではなく「ドン」で通じる。

John Truby
翻訳もある「ハリウッド脚本術」など脚本家向けのを書いている。ドンに名指しで「理論はいいけれど、ハリウッド映画が全部同じものの舞台と俳優だけ変えたリメイクに見える理由を説明してくれないか」と書かれた。

James Scott Bell 〇
 Bell on Writingシリーズで有名な、かなりの大御所。元は弁護士でスリラーを書いているらしい。

Chris Fox 〇
 Write faster, write smarterシリーズでこちらも有名。SFなど書いているらしい。

Joe Bunting "Write Structure" ◎

Matthew Salesses "Craft in the Real World" ◎

Alan Watt " The 90-day Novel"

Matt Bell "Refuse to be done" 〇

女性作家

Martha Alderson "Writing Blockbuster Plot"

Elena Johnson " Writing and Releasing Rapidly"

Jill Harris " Novel Writing Blueprint"

Jane K. Cleland "Mastering Suspense Structure and Plot"

Amy Deardon "How to plan, outline and write your novel in 30 days"

Jennie Nash "Blueprint for a book" 〇

Debra Dixon " GMC : Goal, Motivation, and Conflict" ◎

Kate Hall " A book a week"

Bryn Donovan "Blank page to final draft" ◎

Rachel Aaron " 2k to 10k" ◎

さあ、こんなにどっさり本を並べてどんなすごい論を立てるかと思えば、実はたいしたことがないかもしれない。

結論「男性作家は論にする。女性作家は体験談で終わる」。

男性作家はほぼ、これが唯一の創作論でこの理論しか正しいものは世の中にないという風にしたがるのです。女性作家はほぼ、自分はこうしたらうまくいったけれど、体質(?)に合う人と合わない人がいるだろうから、読者が各自自分で試して自分の役に立つところだけ持って行ってくれというのです。(例外的に男性作家でもSalessesは朝鮮半島の出身者で白人男性が作った欧米文学が合わないのもあって、文化によって違う創作理論があってもいいはずだと書いています)

それで自分が女性だからこういう風に思うのか、そこはわかりませんが、唯一の論が世の中に多すぎる! 体験談でまとめて終わる勇気がないんじゃないかと思ってしまう。こじつけでも理論にして発表したいというのが見栄に見えてしまう。だって、それほど正しい気もしない理論だったり、理論か?という漠然としたものだったりするので。

それに皆さんアリストテレスを引くのだけれど、古すぎませんか? 当時と今とで小説の形態も違うだろうし、やはりよく引かれるキャンベルの「千の顔を持つ英雄」は専門である民俗学の方で「恣意的に神話を取捨選択して先に作った理論に合わせている」と批判されています。何を引こうと勝手だけど、箔をつけるためだけに古典を引かれても、理論の補強には何にもなりゃしません。

まあ「唯一の理論」が体質に合わなくて、一ヵ月も体調悪くして、やめた途端に元気になった経験からくる体験談ですが(ここ、お前も体験談か!と突っ込んでもらえると気が楽)。

あと今もう一つ気づきましたが、女性作家は一冊で創作法の本をやめますね。Bell, Fox辺りはそれでシリーズ本で稼いでいますが。MaassとTrubyに関しては批評が専門で書くのは専門ではない。創作はともかく、批評はまだ女性の進出が少ないのか。その辺はまだ保留にしておきます。

あと、Joe Buntingは先月急にわかるようになりました。それまでは何言ってるかよくわからなかった。自分のレベルというか現在の段階によっても評価が変わります。初心者向けと中級者向けと上級者向けとかあるのでしょう。日本の本は一般に、上級者向けの、プロ用の創作論が多かったように思います。一番の初心者向けは、英語を含めても結局、大塚英志の「ストーリーメーカー」と「キャラクター小説の作り方」あたりかな。ただ、大塚英志は自分の理論を越えたところにいる天才を認めているので、つまりは理論の例外も認めていて、「その理論に合わないこれをどうしてくれる」問題が発生しません。逃げではなく、仮の理論に過ぎないということなのかな。Bellなどは参考にしつつも私はBell理論の例外をどっさり見つけてしまうのですけど。


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