最近読んだPB(その5)です。

[掲示板: 〈過去ログ〉本のこと何でも -- 最新メッセージID: 3237 // 時刻: 2024/5/8(07:57)]

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522. 最近読んだPB(その5)です。

お名前: れな
投稿日: 2004/12/29(16:25)

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皆様こんにちは。れなです。ちょっとごぶさたしておりましたー。
はじめましての方もたくさんいらっしゃるのでしょうか(汗)。
PBの広場が統合されて、どうしようかなとちょっと考えていたのですが、
今までのスタイルだとこちらの掲示板にはそぐわないかなと思いますので、
一応、今回を最終回とさせていただきますね。今まで応援ありがとうございましたー。

その代わりと言っては何ですが、サイト始めてみました。
http://tokirena.fc2web.com/ です。
全然多読サイトじゃないですし、まだ中身もあんまりないですが、
本が好きな方はどうぞ遊びにいらしてください。

しばらく前に、1000万語を通過しました。4年半くらいです。
そう、私は、ある意味、こちらに集う皆さんよりずっとゆっくり読んできたのでした。
そして、最近、「PBで1000万語」もクリアしたようです。ええと、一応
レベル7以上限定。これだとハリポタやライラは入ってしまうんですけどね(笑)。
私はレベル6までの本は40万語前後しか読んでいません。だからこの数字。
そのうちもう少し頑張ります。
でも、そうです。それでも読めるようにはなるんですねー(笑)。読み方は、
やはり日本語での読書に近づいていく感じ。あまり脳みそに負荷がかからなくなって
きたかなと思います。

では、最後のPB紹介。今回はちゃんとファンタジー読みました(笑)。

1.ファンタジー・SF

「秋はファンタジーよね」ということで、色々読みました。ファンタジーファンの
方にとっては、目玉はこの辺かなあ。

David & Leigh Eddings
"The Elder Gods" LV8 133000
その他の翻訳作品:「ベルガリアード物語」他(早川文庫)

Dhrallの地は、4人の実在する神々に統べられていた。
古き神々がその任に疲れたとき、世界には新たな4人の神々が生まれ、
役割を引き継ぐ。古き神々はしばし休息の時を過ごし、当代の神々が疲れを覚える頃に
目覚めて、再びその任に復帰する。それは、悠久の時に繰り返されてきた、自然の理
のひとつだった。そして、今、神々の入れ替わりが近づき、世界は新たな時代を迎えようと
していた。しかし、その神々の隙をつくように、Dhrallに寄生した人外の存在Vlaghが
その力を増し、人間達の世界を脅かし始めたのだ。神々に守られたDhrallの人々では、
Vlaghの侵攻に太刀打ちできない。Dhrallの西の地を任された女神Zelanaは、
Vlaghを食い止めるため、他の大陸の「野蛮人」たちを「金」で雇うことにした……。

ユーモアあふれる筆致で壮大な異世界ファンタジーを描く、人気作家エディングスの
新シリーズ第1巻です。日本語未翻訳作品。この秋にPBになりました。
あくまで個性的な登場人物達が大活躍する、大爆笑の1冊です。以前に読んだ、
"Belgarath the Sorcerer"などよりはこちらの方が読みやすかったですね。
会話がやっぱり秀逸。神様もとっても人間的ですし、相変わらずのエディングスでした。
 
 
それから、こちらは多分、日本ではあまり知られていない新しい作家さんの新作。

Sarah Ash
"Load of Snow and Shadows" LV8 178000
翻訳作品なし。

光あふれる南方の海辺の地Smarnaに育った青年画家Gavrilは、その地に滞在中の
大国Muscobarの姫君Astasiaの肖像画を描くために雇われ、彼女と恋に落ちる。
しかし、その肖像画は彼女の未来の政略結婚の相手へと贈られる絵であり、
彼女とともにいるところを発見された彼はそのまま宮殿から放り出された。
身分違いの恋と、もちろん彼も知っていた。だが、その夜、恐ろしい夢が彼を襲い、
やがて、彼を捜して野蛮な戦士達が彼の家を訪れた。彼は実はMuscobarの北にある国
Azhkendirの唯1人の世継ぎであり、彼の父が亡くなったため、跡取りとして
迎えられるというのだ。これで彼女と対等な地位になることができるのか? 
しかし、これまでずっと父のことを隠し続けてきた彼の母は苦悩に満ちた表情で
彼に告げた。Azhkendirの領主Drakhaonとなること、それは、人としての自分を
失っていくことなのだと。

ロシア風の異世界を舞台に展開される、時代絵巻ファンタジーです。
ちょっと内容詰め込みすぎ? っていう感じもするんですが、ちゃんとまとって
いるからすごいです。それに、なんていうか、全体として暗いお話だし、かなり残酷な
シーンとかもあるのに、不思議と受ける印象が柔らかい。すごく文章がきれいとか、
そういうことではないのだけれど、私にはパステル調の印象があるんです。
透き通る綺麗さではなくて、ちょっと光が透けているような、やわらかいイメージ。
主な舞台は雪に閉ざされた北の国で、そこでは色彩も限られているって、
文中で何度となく語られるんですけれど、それでもずっと、そういう感じで読んで
いました。文章にすごく惹かれるというのでもないけれど、ついついぼーっと読み進んで
しまう、そういうやさしい力を持った作品でした。
 
 
お次はファンタジー上級者向けの1冊。

Greg Keyes
"The Briar King" LV8 193000
その他の翻訳作品:「水の都の王女」他(早川文庫)

昔語りに語られ、今も人々に恐れられる「茨の王」。
森の奥深くに眠る彼が目覚めるとき、世界は滅びを迎えるという。
かつて、その地は残忍な種族の支配を受け、その地に住まう人々は奴隷として
生きるか、死してその隷属から逃れるかしかなかった。彼らを解放したのは1人の
女王。彼女は、魔法の力を持った偉大な存在だった。
そして今、その子孫たる王家の一族に滅びの影がさしはじめ、
世界には異形の生き物たちが現れ始めていた。

グレゴリー・キイズの新シリーズ"The Kingdoms of Thorn and Bone"第1巻です。
翻訳されることがあるのかどうかは不明。1巻ごとに完結するタイプのシリーズかと
思っていたら、完全に続きものでした(笑)。
主人公は1人ではなくて、2人ですらなくて、ええと、視点が据えられる人物だけで8人?
歴史小説風の群像劇です。中でも一番主役に近いのは、王家のお転婆姫アン、
王の森の番人の1人アスパー、外国から来た修道士見習いの青年ステファン、それから、
女王の護衛となる地方出身の清廉な騎士ニール。彼らそれぞれの旅と運命が次々に語られ、
やがてひとつに収束していく展開は、見事なのだけれど読むには大変。
政治向きの陰謀の話も盛りだくさんで、読み応えがありました。

文章は、結構きれい。華美ではなく、どちらかというと実直な感じですが、
森の描写その他、空気が伝わってくるような緻密さは相変わらず。単語的には、
それほど難しいものではありません。人物の描き方が深くて、どんどん視点が変わって、
1人あたりの描写はそんなに多くないはずなのに、感情がものすごく伝わってくる
感じでした。やっぱり力のある作家さんなんだなあと思います。
 
 
マキリップも1冊読みました。この作品、来年翻訳が出るそうです。

Patricia A. McKillip
"Ombria in Shadow" LV8 83000
その他の翻訳作品:「妖女サイベルの呼び声」他(早川文庫)

Ombriaの国を治める王子Royceは、長い病の床についた後に亡くなった。
彼の跡を継ぐ息子Kyelはまだたった5歳の少年。そして、王子が亡くなる前から
すでに、国政の実権を握るのはBrack Pearlと呼ばれ、彼らの大伯母を名乗る謎の
女性であった。魔法を使い、護衛兵達を従え、恐怖によって宮廷を、
Ombria全体を支配するBrack Pearl。彼女によって、Royceの愛妾だったLydeaは
闇に包まれた街に放り出され、幼いKyelは何らかの呪文か薬によって無気力な人形と
化す。彼が唯1人信頼する従兄弟のDuconは、Kyelの身の安全と引き替えに、
Brack Pearlに従うことを選ぶが……。

今年PBになったマキリップ作品のひとつ。2003年の世界幻想文学大賞を受賞した作品
です。相変わらずの美しさ。でも、今回は、意外と手強かったです(笑)。
このお話は、国、というよりは一つの都市の物語。Brack Pearlの暴政により、
闇に包まれ、恐怖に支配されたOmbriaには、もともとその裏に影の都市があり、
影の歴史があるとされています。王宮にはいくつもの影の通廊があり、外の街には
地下の世界が広がります。そこは、過去の幽霊達がさまよう場所。幻想と現実が
入り交じる悪夢の世界です。その幻想的な美しさは、マキリップならではのもの。
静かで、恐ろしくて、言葉のひとつひとつが印象的でした。
 
 
そして、「難しい」と評判の高いこの本、試してみました(笑)。

Ursula K. Le Guin
"A Wizard of Earthsea" LV7 67000
翻訳版:「影との戦い」(岩波書店)

竜が住み、魔法使い達が存在する異世界アースシー。
数多くの優れた魔法使いを生み出してきたというゴント島に生まれた少年ゲドは、
持って生まれた才能を認められて大魔法使いオジオンの弟子となり、
やがて世界最高の学校であるローク島の「学院」に学ぶことになる。だが、
優れた才能を持ち、やがては当代最高の魔法使いに数えられるだろうと認められる
彼の中には、消すことの出来ない影が存在していた・・・・・。

ええとー、正直言って、英文自体は「指輪」よりずっと簡単だと思います。
でも、そのままがーっと飛ばして読める本ではないし、語られる言葉の意味を
ちゃんとわかっていないと、何が何だかわからない。そういう意味では、
楽しんで読むために求められるレベルは高いです。それが「指輪より難しい」
ことの理由になるのかも。なるほどなー、って思いました。

でも私、この本は日本語訳が好きだったような(爆)。冒頭に掲げられた
「エアの創造」、あれって、私には日本語の方がずっと印象的です。
意味は同じでも、心に響く部分が違う。本当は、英語で読んで受ける印象の方が、
作者の考えには近いのでしょうけれどもね。
 
 
あと、今回はSFはこれ1冊だけですが、こちらも試してみました。

Ray Bradbury
"The Martian Chronicles" LV7 63000
翻訳版:「火星年代記」(早川文庫)

1999年の1月は、ロケット・サマーと呼ばれた。
人類初の有人宇宙船が、火星に向けて飛び立ったのだ。偉大なるロケットの熱は
街に暖かい風をもたらし、ひとときの夏を生んだ。人類の憧れを集めて火星に
降り立った乗組員達。しかし、そこには、彼らを認め、歓迎してくれる人々は
どこにもいなかった。
火星には火星人が住んでいた。古く美しい文明を築いた、穏やかな人々。
だが彼らと地球人の出会いは、お互いに不幸をしかもたらさなかった……。

なんていうのかな、その文章を読むことによって生じる「場」のようなもの力が
とても強い文章でした。強力なイメージの磁場というか、何というか。
それにとらえられてしまえば、意味がわかっていようがいまいが、ひきこまれて
そのまま読んでしまうことになるのではないかと思います。少なくとも、
私はそんな感じでした。でも、そういうのって、はまれるかどうかで明暗分かれちゃう
ってことでしょうか。

 
2.一般向けPB

それほど読んでないんです。怠けました(笑)。
今回も一押しはこの人。

David Handler
"The Bright Silver Star" LV9 98000
その他の翻訳作品:「フィッツジェラルドを目指した男」他(講談社文庫)

夏を迎えたドーセットには、観光客があふれていた。古風な町並みを残す美しい町は、
もともと人気の観光地。しかし、この夏、ドーセットは、住民以外の人々を呼び寄せる
さらなる要因を持っていた。双方ともに若手の人気映画スターである、Tito と Esme夫妻が
町に滞在していたのだ。Esmeは、Mitchの散歩仲間であり、ドーセットの有閑階級の重鎮
でもあるDodgeの娘だった。映画評論家として、彼らに個人的に近づくことを避けていた
Mitchだったが、彼がTitoの最新出演作の批評を発表したことで、状況は変化してしまう。
「怒れる若者」の具現したような当代最高のスターであるTito。彼の怒りはまっすぐに
Mitchに向かう。だが、その後……。

絵のように美しい町を舞台に、そこ住む人々のそれぞれの事件を深い哀感をもって描く
このシリーズ、今回もまた、どろどろの愛憎劇が展開されました。なかなか強烈です。
でも、やっぱり好きですねー。流麗な文章と気の利いた会話。そして、語られる人生。
ミステリーですけれど、物語の中にきちんと人生がある、そういうシリーズです。
なかなか同好の士に巡り会えませんが、おすすめ。
 
 
それから、こちらは万年少女の皆様へ。

Mark Richard Zubro
"Why Isn't Becky Twitchell Dead?" LV8 61000
その他の翻訳作品:「黄昏のハイスクール」(創元推理文庫)

クリスマス休暇を目前に控え、生徒達に課したスペリングテストの採点に追われる
トム・メイスンの元に、彼のよく知る生徒の母親が訪れた。彼女の息子達は、
いわゆる「出来の悪い」生徒。今度は一体何が、と問いかける彼に、彼女は言った。
「ジェフが逮捕されたの」。ジェフは彼女の下の息子。彼は、恋人スーザンを
殺害した容疑で、警察に連れて行かれたという。冤罪だと信じる彼女と、
ジェフ自身に頼まれ、トムは校内で聞き込みを始めるが……。

大昔に、創元推理文庫から「黄昏のハイスクール」というタイトルで1作目が出たきり、
翻訳が続かなかったゲイ・ミステリのシリーズ2作目です。というわけで、
「その方面は絶対ダメ」な方は見なかったことにしてください(笑)。
「ええっ? そういうネタが絡むなら絶対読むー」という万年少女の皆様、お待たせ
致しました(爆)。熱血高校教師トムと、その恋人で現役大リーガーのスター選手
スコットがラブラブな活躍を見せるお楽しみシリーズ。いよいよ登場です。

作者は現役の高校教師なのだそうで、アメリカの高校の先生の日常が細々と
語られるのも興味深いです。でもねー、麻薬だなんだがそこまではびこる、
次々と殺人が起こる高校ってどうなんでしょう? 
今回は、親からプレッシャーをかけ続けられた子ども達の悲劇の物語。どこの国でも、
同じことがあるのだろうな、と思います。とても悲しいことですけれど。


ええとそれから、ロマンス小説も今回これだけ。

Kay Hooper
"The Wizard of Seattle" LV7 108000

シアトルに住む魔法使いリチャード・マーリンの元に、ある嵐の夜、一人の少女が
現れた。彼女の名はセリーナ。自らの中に育ちつつある魔力を御しきれず、
必死の思いで師匠を求めて旅をしてきたのだ。すがるような眼をしたやせ細った少女を
彼はその場で弟子に迎え、表向きは叔父と姪として彼女と暮らすようになる。
しかしそれは、彼の属する魔法使い社会の絶対の掟を破る行為だった。
9年後、美しく力強く成長したセリーナと彼の間には微妙な緊張が生じるようになり、
機を同じくして、他の魔法使いたちに彼のしていたことが発覚。彼は、長老達から
セリーナの力を奪い、普通の人間に変えるよう命じられてしまう。
彼女の力を奪うことは、彼女そのものを壊すこと。どうしてもそれを受容できない彼は、
掟そのものを変えるため、セリーナとともに、はるかな過去、崩壊直前のアトランティス
へと、時間を超えた旅に出ることを決意する。だがそこには、彼らの想像を超えた過酷な
社会が存在していた……。

なんとなく、こんなふうに書くとすごく大変な本のようですが、ロマンス小説です。
表紙の画像しか見ていなかったので、届いた本を裏返してびっくり。
抜書きの頁を読んで更にびっくり。そうかこういう本だったのかー、と。
本格ファンタジーとは全然違う、ある意味ご都合主義のエンターテイメント。さくさく読めて、
面白かったです。真面目につっこむとつっこみどころ満載、でしょうねー。ちょっと待て、
いいのかそれで本当に? みたいな(笑)。

 
そして最後に、やはりこの方の作品を。

Paul Auster
"Oracle Night" LV8 73000
その他の翻訳作品:「偶然の音楽」他(新潮社)

重病に倒れ、奇跡の生還を果たした作家のシドニーは、退院後、少しずつ少しずつ
自らを取り巻く世界を再構築していた。ある日、リハビリを兼ねた散歩の途中、
偶然入った文房具屋で、彼はポルトガル製の青いノートに出会う。それは、彼に
久しぶりに物語を書こうという意志と力を与えるが……。

本屋で「呼ばれ」て買った本です。
これまでも何度か見ていたはずなのに、その日に限って呼ばれたのは、
やはり何かあるものなのでしょう。確かに、「呼ばれた」理由はわかるなって
いう感じの本でした。タイミングもいい。さすがに外しません私(笑)。

この本は4層構造になっています。外から2層目が中心となる物語。主人公シドニーが
自分に起こっている出来事を1982年のリアルタイムで物語っている部分。
その外から、現在のシドニー(2002年?)が脚注をつけていて、それが1層目ですね。
これがねー、フォントが小さくて大変(笑)。でも、同時に読んでいかないと損をします。
だってただの脚注じゃなくて、1層目だから。
3層目はシドニーが青いノートに書いていく物語。4層目はその物語の主人公ニック
が読む、有名作家の埋もれていた原稿(これのタイトルが"Oracle Night")です。
物語はこの4つの物語の上を自在に走っていく感じ。違和感のない、流れるような展開でした。

オースターを読むのは2冊目。1冊目は80年代に書かれた作品でしたので、
この本とは20年近い開きがあるわけですね。確かに、底に流れるものも、文章も同じだ
けれど、ずいぶん趣きは違っていました。前の本が峻厳な山に湧き出る清冽な水の流れで
あったとすれば、こちらは、同じように透き通ってはいるけれど、もっと人里に近い、
緩やかな土地をさらさら流れる小さな川、という感じでしょうか。どちらがいいとかいう
ことではなく、ただ、違う。もう少し、間を埋める作品を読んでみようと思っています。
 
 
以上、おつきあいありがとうございましたー。
今年もお世話になりました。ありがとうございました。
皆様、よいお年をお迎えください。


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