シュリーマンの方法

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78. シュリーマンの方法

お名前: 柴田武史
投稿日: 2001/11/25(02:12)

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古川さん、酒井さん、こんにちは。

 シュリーマンの方法についての情報です。古川さんが覚えておられるのは次の内容でしょうか。

 「この簡単な方法とはまず次のことにある。非常に多く音読すること、決して翻訳しないこと、毎日一時間をあてること、つねに興味ある対象について作文を書くこと、これを教師の指導によって訂正すること、前日直されたものを暗記して、つぎの時間に暗誦することである」

 これは岩波文庫の「古代からの情熱」に書かれています。私は中学・高校一貫校で英語を教えており、シュリーマンの外国語習得法に興味を持って、入手できた、シュリーマンの自伝の四冊の和訳本を読み比べていたところ、不可解なことに気づき、出版社に問い合わせたことがあるのですが、その謎はまだ完全には解けていません。そのことについてお話します。

 四冊はいずれもドイツ語で書かれた同じ本を邦訳したものです。「岩波文庫」「新潮文庫」「角川文庫」「小学館」から出ています。題はみんな「古代への情熱」となっていたと思います。上記の、シュリーマンの言語学習法の最初の三点は
 1大量の音読
 2翻訳をしない
 3毎日1時間をあてる
となっていますが、このうち、2と3の部分が四冊の訳本の記述が一致しないのです。どの会社の本にどう書いてあるかは正確には覚えていませんが、2については
 2決して翻訳をしない
 2ちょっとした翻訳をする
 2短文の訳をする
と、まるで正反対のことが書いてあります。3は
 3毎日1時間をあてる
 31日に1時間は勉強する
 3毎日授業を受ける
と書いてあるものに分かれます。

 これはいったいどういうことなのでしょうか。この部分はシュリーマンの外国語学習法の根幹の部分です。それがなぜこんなに違っているのでしょうか。それを知りたくて、私は四つの出版社に問い合わせたところ、岩波文庫からだけは2回も手紙を出したのに無視されましたが、他の三社からは翻訳者の返事をいただきました。

 そのおかげで面白いことがわかりました。2の点、すなわち「訳すか、訳さないか」というまるで正反対のことになったのは、ドイツ語の原書の中の一つの単語が原因でした。

「keine か kleine か、それが問題だ!」

 私はドイツ語がわかりませんが、keineは「無の」という意味で、kleineは「小さい」という意味らしいのです。返事をくれた3人の翻訳者たちが使った原書には kleine 〜〜(〜〜は「翻訳」という意味のドイツ語単語)と書いてあったので、「小さい翻訳→ちょっとした翻訳/短文を訳す」となったわけです。ところが、小学館の本の訳者は「小さい翻訳をする」ではシュリーマンが他のところで述べている学習法と矛盾するから、英語版(後述)を参考にして、kleineはkeineの誤植であると判断し、「訳をしない」と訳したと回答をくれました。

 本当に誤植なのかどうかは私にはわかりません。しかし、この謎を解くために私も古本でこの本の原書の英語版を入手して調べてみました。岩波文庫の注釈の中で訳者はシュリーマン自身が同じ本をドイツ語でも英語でも書いたと述べ、この英語版を参照したことを明らかにしています。しかし、今回返事をもらった訳者たちの中には、この英語版はシュリーマンが書いたドイツ語版をだれか別の人が英訳した翻訳本だと言っている人もいて、この点の真偽も私にはわかりません。ただ、この英語版はシュリーマンが著者であることしか出ておらず、訳本であるということをうかがわせるような記述(訳者名など)が一切ありません。
 
 ではこの本には何と書いてあったのでしょうか。以下、引用します。

Necessity taught me a method which greatly facilitates the study of a language. This method consists in reading a great deal aloud, without making a translation, taking a lesson every day, constantly writing essays upon subjects of interest, correcting these under the supervision of a teacher, learning them by heart, and repeating in the next lesson what was corrected on the previous day.

いかがでしょう。「翻訳をせずに大量に音読をする」と「毎日(1)授業を受ける」となっていますね。この英語版に従うとシュリーマンの言う理想的外国語学習法は

 1翻訳をしない大量の音読をする。
 2常に興味のあることについて作文を書く。
 3毎日授業を受ける。その際に教師にその作文を添削してもらい、
  それを翌日の授業で暗誦する。

となりませんでしょうか。

 なお、英語版の taking a lesson every day が「1時間をあてる・1時間勉強する・授業を受ける」と分かれた原因は、翻訳者の回答によって、ドイツ語版の

 eine Stunde nimmt

の解釈の相違だったとわかりましたが、ドイツ語がわからない私にはどちらが正しいのか判断のしようがありません。しかし、英語版の taking a lesson には複数の解釈は不可能ですね。

 残る謎は「英語版はだれが書いたか」「kleine は keine の誤植か。誤植であるとすれば、いつ生じた誤植か(ドイツ語版は1961年までに9版を数えています)。もしかしたら初版から kleineとなっていたのかも」「eine Stunde nimmtの意味は何か」です。

 以上、ご参考になれば幸いです。

 


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