多読授業の10のポイント

[掲示板: 〈過去ログ〉多読による外国語教育 -- 最新メッセージID: 1456 // 時刻: 2024/5/5(05:53)]

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178. 多読授業の10のポイント

お名前: 古川@SSS http://www.seg.co.jp/
投稿日: 2004/3/2(23:18)

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今までの経験をもとに、これから多読授業をされる方を念頭に
授業にあたっての基本的な考え方を簡単にまとめてみました。

これから多読授業を始めようという方の参考になれば幸いです。
(テクニック編は、再来週くらいに投稿します)
なお、指導される方は
1) 快読100万語 を読んでSSS多読の基本的考えを理解する
2) 今日から100万語をよんで 主な多読用図書のタイトルと
   難易度を理解する
ことをおこなってから授業されると、より、効果的な授業ができる
と信じます。

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SSS式多読授業の10のポイント

                        SSS英語学習法研究会
                        古川 昭夫
                        2004年2月

SSSの多読法は、「母語を身につけたように英語を読む方法」ということです。
ですから、多読授業においては、「子どもが母語をみにつけた際に、親が果たした
役割を教師が担当する」ことになります。より、これから、多読指導をされる教師
の方には、次の点に留意して授業の準備をされることをおすすめします。

■授業の主役は生徒

1 生徒が読書を楽しむ環境を最大限つくる

  生徒が読書を楽しむことに集中できる環境作りを重視します。そのために、
  もっとも重要なポイントの一つが、生徒に感想文や理解度チェックを課さない
  ことです。
  SSSでは、生徒に負荷がかからない、メモ程度の1行感想を奨励しています。
  感想文を書く時間があったら、英語をたくさんよんでもらう方が多読の授業と
  しては効率的です。

※授業中に生徒が実際に読んでいる様子を一人一人観察していれば、生徒に感想文
 を書かせなくても読んでいるかどうかはすぐわかります。
 内容理解のチェックをしなくても、次の本を読みたいといっていれば、その本を
 楽しんだにちがいないのです。
※日本語の早朝読書運動でも、感想文を強要することはマイナスであることが
 多くの実践者によって実証されています。
※読書内容についての試験以外の試験や評価をすることを否定しているわけでは
 ありません。
 出席点、何らかの題材を与えた自由英作文テスト、外部の一般試験(TOEIC,ACE)
 による評価、Cloze Test、未読の本を読ませてその本での読解力テスト、
 などでの評価などが考えれます。
※未読の本を読ませての読解力テストをする場合には、新刊の本を1冊、
 生徒の貸出用に回さずにとっておくのがコツです。また、Time For Kids
 のようなやさしい週刊誌を題材にするのもうまい手です。 

2 生徒に読書を押しつけない

  SSS方式の授業では、生徒が疲れていて寝ても、あるいはほかの勉
  強をしていても先生は起こして強制的に読ませることはしません。
 生徒が読みたいときに読みたいものを読んでこそ効果が高く、
  読みたくないときに強制的に読ませても効率が悪いからです。
  一人一人の状態を観察し、個別に指導することにより、自然に自分から
  読むたくなるように生徒を導きます。たいていの場合、先行する生徒
  に刺激されて、最初は読まなかった生徒も、次第に読むようになります。

※今までの授業では、生徒は強制しなければ勉強しないものだ ということ
 が前提になっていまし。しかし、「面白いことなら自発的にやる」のが
 子ども達です。子ども達を思いっきり信じてみましょう。
※必ず、「1年間全く読まない生徒はどうするんだ」という批判を受けます。
 そういう先生には、「1年間先生の講義を受けて(あるいは強制式多読授業
 を受けて)全員の生徒の実力が本当に伸びつづけていますか?」と問い返し
 たいと思います。この質問にはっきりと「YES」と答えられる先生だけがそ
 ういう批判をする資格があるでしょう。この批判は甘んじて受けざるを
 得ないとは思いますが、実際には、どんな教授法をしても、全員に効果がで
 るわけではありません。問題にするなら、その比率を問題にするべきでしょう。

3 授業中の生徒の様子を観察して、個人指導する

  授業中に読書をさせて、生徒の様子をみたり、生徒と対話することによって、
  生徒と教師の信頼関係を構築できます。また。そのことによって、感想文提出
  やテストなしに、生徒が適切なレベルの本を読んでいるかを教師が判断できます。

※個人によって、現在の英語力も、今読みたい気持ちも、読みたいものもみんな
 ことなります。ですから、それらを適切に読みとってアドバイスしましょう。

■やさしくたくさん

4 レベル0から始める 

  SSSでは、可能ならば、全員が、Oxford Reading Tree Stage 1の語彙0語
  レベルの本から 始めるます。これは、「流れるように読む」、「訳さずに
  読む」感覚を生徒に感じ取ってもらうためです。
  まだ、どんな生徒も同じレベルから始めることによ、生徒にどの生徒も
  公平に扱っていることをアピールすることにもなります。
    
※どんな生徒も、自分がストレスなくて読める本から始まるので
 非常に安心感をもちます。
※ORTが費用的に難しい場合には、PGR0から始めることになりますが、
 これはちょっと英語が苦手な生徒にはかなり苦痛になります。数が少なく
 ともORTを揃えて、ちょっと苦手な子には先にORTを、得意な子には
 あとでORTを読んでもらうというのがおすすめです。

5 基本200−1000語レベルの本を非常に重視する

  基本500語レベルが使いこなせれば、日常会話はできます。
  基本500語は非常に頻度が高く使い方も多様で、これらの語彙の使い方を体得
  することによって、長く難易度の高い文章を正確に早く読めるようになります。
  私たちは 英語が得意な生徒には1000語レベルまでで100万語を、
  英語が苦手な生徒には500語レベルまでで100万語読むように指導しています。
  SSSの多読では、非常にゆっくり、しかし、確実にレベルを少しずつ上げて
  いきます。それでも、100万語読むと、いきなりハリーポッターを読める人達が
  続出するのです。

※レベルの低いやさしいものをたくさん読んだ方がむしろ後の伸びが良い例がいくつか
 報告 されています。ですから、生徒が面白がって読んでいる限り、レベルを上げる
 ことを急がせることはありません。厭きてきたらレベルを上げるようにして下さい。

6 難しい本が読めるようになってきても、易しい本も読むことを薦める

  ペンギンの200-300 語レベルの本や、ORTのStage 1-9 などををかなり高いレベル
  が読めるようになっても読ませることは重要です。
しばらく読書から離れていてもこのレベルのものならすぐ読めるようになります。
  また、難しいものを読んだ後、易しいものも読むと 読書スピードを上げる
  ことができます。
  このレベルの本をたくさん読んで、会話がスムーズにできるようになったとの
  報告多数もあります。

※社会人によるいろいろな体験により、レベルを上げた後、レベルの低いものを読むと
 レベルの高いものの読書速度もあがることがわかってきました。このような定性的
 な報告は、貴重な存在であるにもかかわらず、「証明がない」といって全く無視する
 教師います。しかし、実際、TOEIC高得点者や、英語を教えている人も含めて、
 Oxford Reading Treeをかなり進んだ段階で読んで、会話がスムーズになった・読書
 速度が上がったと証言する人がいます。

7 150万語程度読むまでは、辞書を使わない

  最大の理由は、辞書を使うと読書のリズムが崩れて読書が楽しめず、たくさん
  読むことはできません。たくさん読むには辞書を使わないのが一番です。。
  また、日本語と1対1の対応では、基本単語は身につかないからです。

※辞書をどうしても使いたいという生徒がいたばあい、引く回数は1冊につき3語まで
 と指導して下さい。その程度ならそれほどリズムが崩れません。
※辞書を引く場合も、できるだけ、読書後にさせるとなお効果的です。
※巻末のGlosaryも最初か(と)最後に読むのが良いでしょう。途中に頻繁にみると
 とやはりリズムが崩れます。
※英和辞書に頼ると、head=頭、 finger=指 alone=一人で といった表面的な
 理解で終わる場合が多いので、SSSでは初期段階での辞書利用を否定しています。 
8 年間50万語〜500万語読むことを目指す

  単語の暗記をさせずに単語を定着させる、自然な表現を自然に使えるようになる
  には、重要な表現には何度も何度も触れることが必要です。そのためには、
  年間50万語〜500万語という、今までより、10倍〜100倍の読書量が
  必要なのです。量が質に転化する臨界量が50万語程度と考えています。 

※いろいろな理由で、年間50万語の達成が難しい場合もあると思います。その
 場合でも、2年間で累計50万語、3年間で累計150万語というようなプロ
 グラムを学生に提示して、将来的には年間100万語読める自信を1年間で
 つけると良いでしょう。

■楽しく読める本を薦める

9 いろんな種類の本を揃える

 やさしい本を大量に読むためには、やさしい本が大量に必要です。
  Graded Readers は大変良く書かれていますが、やはり、教科書的な雰囲気
  が残っていますし、それだけでは総量も足りません。 SSS方式では絵本
  レベルから、幼稚園時用、小学生用の原書を多数利用し、生徒の多様なニーズ
  に応えるとともに、生の英語にふれます。また、日本人になじみ深い日本の
  漫画の英訳本も活用します。
 そのために、25人のクラスの半年分の運営に最低20万円、1年分の運営に
  最低40万円の費用がかかります。
  マンガ等も揃えるなど、ある程度理想的な運営には最低で100万程度の図書
  費がかかります。初期費用がかかるのが欠点ですが、しかし、それにみあう効
  果があります。

※SSSの最大の功績は、
 1) GRの語数を実際にすべて数えて100万語という具体的な目標を提示したこと
 2) 英米のやさしい児童書のシリーズを多読教材に多数加えたこと
 3)社会人学習者の参加を促し、やさしくて面白い児童書を発見・語数カウント
  ・書評・評価するシステムを作ったことにある
 といって良いでしょう。
※100万円の図書費ということで、「そんなこと無理」と言われる先生も
 多いです。しかし、学校全体の予算で考えればそれは実現不可能な金額では
 ありません。実際、多読の効果を校長・学長・理事長に説得できたところでは
 その程度の予算はついています。

 

10 生徒の読みたい本を手に入れよう

  SSSでは、生徒が主役です。生徒がこんな本が読みたいというと
  教師はなんとかそれを探してきます。 教師が生徒に英語を教えるのではなく、
  生徒が自分で英語を学ぶのを手助けすることに徹します。

※生徒がこんな本を読みたい といいだせばしめたもの。自分で読む気に
 なったということですがら、初めのうちは、自腹を切ってでもぜひそろ
 えたいものです。しかし、将来的には、速やかにそのような本を公費で
 購入できるシステムを構築する必要があるでしょう。
※多くの良心的な教師は、自腹をかなり切って多読の授業を進めています。
 その場合、学生から、教材費をとることをSSSではアドバイスしています。
 また、個人的に苦労されている特に非常勤講師の方に対して、SSSを母体
 に多読学会を立ち上げ、学会の研究発表や、新刊本の書評・語数数えに協力
 していたく見返りに、教材の本の貸出を行う制度を徐々に作っていく予定
 です。そのために、学会の世話人は出版社等に頭を下げて賛助金を集めて
 います。「不可能」といってあきらめるのではなく、可能なことから始めよう
 というのがSSSの考え方です。

以上


▼返答


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